価格交渉・価格転嫁の取組事例
200年の伝統をリデザイン。老舗和菓子店が挑んだ「段階的値上げ」と「体験価値」の創造
- ブランド力向上
- 交渉の工夫
- その他
公開日
取組のポイント
- 原材料費高騰への対応に加え、新規顧客獲得やヒット商品の開発が持続的な経営を続けていくため必要に
- 5年間で140円から240円へ段階的に改定、デザイン刷新と社内リソース活用で新商品もヒット
- カフェ併設店では客単価2,500円実現、業界水準を超える利益率を確保
価格交渉・価格転嫁を行うきっかけ/ 企業で抱えていた課題
200年以上の歴史を持つ老舗として成長を遂げてきた一方で、顧客の高齢化や和菓子需要の減少、贈答文化の衰退といった構造的な課題に直面していました。
追い打ちをかけるようにコロナ禍以降、砂糖や果物、小麦などの主要原材料が30〜50%も高騰。光熱費や人件費も増大し、経営環境は極めて厳しい状況でした。
看板商品の「リップルパイ」も地元では定番化しすぎており、新たな顧客層の獲得と、投資に見合うヒット商品の開発が急務となっていました。
取組を行った内容
自社の強みである製餡技術と菓子づくりのノウハウを改めて分析し、現在地を再確認した上で、コロナ前から感じていたリブランディングの必要性に本格的に着手しました。
全国のお菓子屋によるカフェ併設型店舗を首都圏・関西・九州などへ視察し、方向性の検討を重ねた結果、防衛的値上げと価値転嫁型値上げの両輪で取り組む方針を決定。看板商品のリップルパイは、5年かけて20~30円ずつ段階的に価格改定を行い、140円から240円へと移行しました。コロナ禍の厳しい状況を乗り越えるため、事業再構築補助金を活用し、カフェ併設型の新店舗「きねや菓寮」を構築。VIデザインは外部デザイナーに依頼し、店舗・パッケージを一新しました。
また、11代目の和菓子店修業経験やデザイン・写真のスキルなど社内の潜在リソースを最大化し、新商品「生リップルパイ」が大ヒット。700~1,300円のドリンク、1,200~2,900円のスイーツ、5,500円のアフタヌーンティーなど平均客単価2,500円という地方では珍しい価格帯も実現しました。価格への不安はあったものの、空間設計や商品背景の発信、モンブランの絞り出し体験など体験価値を付与することで、高価格への納得感を醸成しています。
取組を行ったことにより得られた効果
新店舗「きねや菓寮」は、繁忙期には月間売上1,100万円を超え、従来店舗の同時期比較で2店舗分に相当する成果を上げています。原価高騰が続くなかでも業界水準を大きく上回る利益を確保できており、ブランド力向上の効果は既存店にも波及しました。
新店舗が「ブランドの象徴」となったことで、従来品の価格改定も無理なく進められました。さらに百貨店からの引き合いが相次ぎ、バイヤーが直接来店するようになるなど、外部からの評価も高まっています。
県外客も増加し、テレビなどのメディアで取り上げられたことも追い風となり、「山形への観光誘客」という新たな役割も担い始めました。実際に、百貨店で商品を購入したお客様が1週間後に山形の実店舗を訪れる事例も生まれ、「杵屋をきっかけに山形を知る旅」を楽しむ人が増えています。現在も東京・名古屋・新潟・宮城・秋田・岩手など全国から「きねや菓寮を訪れたい」と来店が続いています。
取組を行って感じたこと/ 今後取組を行う企業に対してのコメント
今回の取組を通じて強く感じたのは、値上げは「苦しくなってから」ではなく、早めに段階的に進めるべきだという点です。耐えた後の値上げは顧客も受け入れにくく、少しずつ積み上げる方が双方にとって自然です。
また、環境が整うまで待つのではなく、動きながら修正していく姿勢も欠かせません。カフェ運営は未経験でしたが、人気カフェでオープニングスタッフ研修を受け、現場の運営ノウハウを学びました。さらに、自社理解を深めるために工場見学や商品説明研修を行い、全社員がリップルパイの価値を自信をもって伝えられる体制を整えました。
加えて、社内外のリソースを最大限に活かしたことが成功につながりました。社内では、新業態に合わせたカフェメニュー開発、ビジュアルディレクション、写真撮影、SNS運用など若い世代の感性を積極的に任せ、上の世代が“今どきのやり方”を否定しない文化を重視しました。社内外には意外な才能が眠っており、適材適所で組み合わせることで投資効果を最大化できると感じています。
株式会社杵屋本店|きねや菓寮
創業1811年の老舗和菓子店「杵屋本店」(山形県)は、自家製餡へのこだわりと212年受け継がれてきた伝統技術を礎に、「継往開来」を掲げて新たな挑戦を続けています。近年は、伝統に現代的なエッセンスや体験価値を加えた飲食・物販併用型の新業態「きねや菓寮」を展開。従来の菓子店をリブランディングし、厳選したお茶と和洋菓子を楽しめるカフェを併設しました。ロングセラー商品「リップルパイ」を再構築した「生リップルパイ」など、新たな魅力の発信にも力を注いでいます。
- 所在地
- 山形県上山市弁天2-3-12
- 業種
- 製造業

