価格交渉・価格転嫁の取組事例
「建築×金融」の知見で差別化 工務店が挑んだ事業計画からの利益確保
- 支援機関によるアドバイス
- ブランド力向上
- 市場調査
- 取引関係の改善
取組のポイント
- 既存ノウハウの掛け合わせによる新しい資産の確立
- 顧客の立場に立脚した包括的な体制構築
価格交渉・価格転嫁を行うきっかけ/ 企業で抱えていた課題
価格転嫁に踏み切った背景には、複合的な市場環境の変化があります。
最も深刻だったのは建築資材の急激な高騰で、コロナ禍前の2019年と比較して材木(プレカット材)は60%、屋根材(金属立平)は55%も上昇していました。
同時に、業界構造の大きな変化として、新築着工件数がバブル期の167万戸から2024年には79万戸まで減少し、2040年には49万戸まで縮小する見通しとなる中、大手住宅メーカーが従来の新築市場からリフォーム市場へと続々参入してきました。この結果、当社のような地場工務店にとって競争環境が激化し、従来の価格設定では利益確保が困難な状況に陥っていました。
加えて、先代から受け継いだ既存顧客の高齢化が進み、将来の事業継続性を考慮すると第一次取得層への顧客転換も重要な経営課題となっていました。
取組を行った内容
主に顧客属性に応じた最適な選択肢の提案と、リスク回避を重視した資金計画の徹底を行いました。
住宅案件においては、住宅ローンの追加融資が困難である特性を踏まえ、トラブル回避を最優先に入念な資金計画を策定しました。具体的には、顧客の年収データ(山形県平均364万円、世帯年収582万円)と借入可能額を詳細に分析し、坪単価に十分な余裕を見込んだ現実的な予算設定を行いました。売上高の追求よりも利益率確保を重視し、全体予算を段階的に顧客と共有することで、価格上昇への理解を得る仕組みを構築しました。
店舗案件では、建築価格高騰により事業計画と見積の乖離が頻発していることから、企画段階から資金調達を伴う事業計画支援に参画し、金融機関との調整時間を考慮した包括的なサポート体制を整備しました。
取組を行ったことにより得られた効果
市場で独自のポジショニングを確立し、競合他社との差別化に成功しました。
最も大きな成果は「新築業界×リフォーム業界」「事業計画支援×建築業」というクロスノウハウの獲得です。大手住宅メーカーがリフォーム市場に参入しても、部署は設立したがリフォームノウハウが不足し商談が進まないケースが多い一方、既存のリフォーム業界は金融・税金リテラシーに課題があり、銀行融資を伴う大型リノベーションを苦手とする傾向があります。同社は両方のノウハウを保有することで、顧客から高い支持を獲得し、リフォーム市場参入メーカーからの協力依頼も増加しました。
また、ワンストップでの事業計画から建築までのサポートにより、事業者の負担軽減を実現し、小売店や飲食店等からの引き合いが大幅に増加しました。これらの結果、価格上昇を転嫁しながらも受注拡大を実現するという、一見矛盾する成果を同時に達成しています。
取組を行って感じたこと/ 今後取組を行う企業に対してのコメント
建築業は、住宅ローンや企業予算など「予算を先取りする構造」のため、防衛的な価格転嫁の発想では限界があると感じました。また、高断熱・高気密、全館空調などモノの差別化は日進月歩であり、R&D やマーケティングに多くのリソースを割ける大手企業には太刀打ちできません。
だからこそ、中小企業にしかできない細やかな気遣いや、資本力のある企業が踏み込みにくい間接的な領域こそが差別化の源泉であり、価格転嫁の決定打になると実感しました。実践こそが最大の R&D であり、日々の顧客対応の中にこそマーケティングの本質があると強く感じています。一見、価格転嫁が難しいと思われる業界にも、必ず突破口はあると感じています。重要なのは「値上げの是非」ではなく、自社の強みやリソースをどのように顧客のベネフィットへ変換できるかという視点です。価格転嫁を目的にしてしまうと、利益率や費用対効果ばかりに目が向き、視野が狭くなりがちです。一歩引いて自社を俯瞰し、自社にしかできない価値の設計図を描くことで、結果として独自のポジショニングと「価値提案型の価格転嫁」が実現します。価格の見直しは終点ではなく、次の成長を設計する出発点です。
有限会社スズタカ
一戸建ての新築工事、増築、改築、減築、耐震補強工事などを手掛けています。特に、丁寧な建築工事とお客様のライフスタイルに合わせた提案を強みとし、大工、建築家、ディレクターが協業して住宅ブランドも運営しています。
- 所在地
- 山形県東村山郡山辺町大字山辺167
- 業種
- 建設業
- 資本金
- 5,000千円

