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EVENT REPORT

03

2025.9.2開催@神奈川会場

「価格交渉は正当な行為」講習会で語られた成功のプロセス

賃上げこそが成長戦略の要――そんな石破茂前首相の施政方針演説から始まった2025年。賃上げを実現するには価格交渉・価格転嫁が欠かせない。
原材料費やエネルギーコストが高騰する今、中小受託事業者は、適正な価格交渉・価格転嫁を実行するタイミングに来ている。そのためには何を準備し、どのようなマインドセットで臨むべきか。
価格交渉の基礎知識やポイントが学べる価格交渉講習会が、2025年9月2日、神奈川県横浜市で開催された。そこで語られた、企業が生き残るために必要不可欠な価格交渉・価格転嫁とは?

価格転嫁を実行し、資金繰りの不安から脱却

第1講座「『価格交渉・価格転嫁』に関する基礎知識講座」では、船井総合研究所のコンサルタント・富樫優斗氏が、価格転嫁の最新動向に加え、よりよい価格交渉のための準備や、取引先と円滑にコミュニケーションを取るための価格交渉術を解説。
どのような取引条件に注意すべきか、2026年1月1日に施行される下請法・下請振興法の改正のポイントも交えて説明した。

第2講座「『成功事例から学ぶ価格交渉・価格転嫁』のポイント」は、第1講座をふまえ、自社の取り組みに応用できるような内容となっていた。講師は、一般社団法人 神奈川県中小企業診断協会の中小企業診断士・福田幸俊氏。実際の価格転嫁の事例をもとに、価格交渉を成功させたポイントをパネルディスカッション形式で紹介した。

福田氏は、中小受託事業者A社の事例を紹介。自転車操業状態に陥り経営不振に悩んでいたA社は、価格転嫁の実施後に営業利益率が1%から4%に上昇、毎月の資金繰りの不安から脱却したという。福田氏は、A社が3社の顧客それぞれとどのように価格交渉を行ったか、準備段階からのプロセスを解説した。
例えば、大企業の顧客Xに対しては内部説得のための資料を入念に準備したことが功を奏し、契約単価を9%アップすることができたという。

総理大臣施政方針演説で語られた「賃上げ」と「価格転嫁」

今回の価格交渉講習会では、特別講座も開催された。特別講座①「サプライチェーン全体から見る価格交渉・価格転嫁について」では、ソニーを早期退職後、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)で産官学連携オープンイノベーション、スタートアップ支援を行ってきた、HARUグローバルスタイル 代表取締役の春吉一穂氏が登壇。

委託事業者と中小受託事業者の1対1の関係ではなく、サプライチェーン全体の視点で価格交渉に役立つ情報や心構えを語った。

2025年1月、石破茂前首相は総理大臣施政方針演説で「人財尊重社会における経済政策にとって、最重視すべきは賃上げです。賃上げこそが成長戦略の要との認識の下、物価上昇に負けない賃上げを起点として、国民の所得と経済全体の生産性の向上をはかってまいります」と述べた。

そして、多くの中小企業が賃上げを実現するために、取引の上流から下流まで、適切な価格転嫁や生産性向上を実現することを重視し、下請法の改正法案なども検討していることにも触れた。
経団連、経済同友会、日本商工会議所の経済3団体も、「サプライチェーン全体で労務費やエネルギーコスト、原材料価格の価格転嫁を推進する」「経営者自らが先頭に立ち、パートナーシップ構築宣言に参加」「良いモノやサービスには相応の価値がつくという価値観を浸透させる」必要性を訴え、「デフレマインドの払拭や価格転嫁を社会全体で受け入れる商習慣の確立」などの取り組みが重要であると述べた。

課題はサプライチェーン全体に価格転嫁を浸透させること

価格転嫁はサプライチェーン全体で取り組むべきことというフェーズに来ていることは明らかなものの、実際には厳しい面もある。

受注側企業の取引段階と価格転嫁率のグラフを見ると、値上げ交渉をした際に満額が認められた割合は、1次請けで27%。しかし、4次請け以降では15.1%に低下。サプライチェーンの階層が深くなるほど、価格転嫁が実現していない現状が明らかとなっている。

受注側企業の価格転嫁率と賃上げ率のグラフでは、価格転嫁ができている割合が高い企業ほど賃上げ率も高いが、逆に価格転嫁ができなかった企業では賃上げ率も低い傾向がある。

「賃上げの原資は価格転嫁によって生まれるため、両者には密接な関係があります。ここで注目すべきは、価格転嫁が0%であるにもかかわらず、5%以上の賃上げを実施している中小企業が21.8%も存在するという点です。 原資が増えていないにもかかわらず賃上げをしているということは、中小企業が人材不足に直面し、大手企業への人材流出を防ぐために、利益が出ていなくても賃上げをせざるを得ない状況に追い込まれていることを示唆しています。 これは『防衛的賃上げ』とも呼ばれ、原資がない中で何とか現状を維持しようとする、非常に苦しい状況を表しています」(春吉氏)

「私たちはいま、“失われた30年”のあとの踊り場にいて、非常に重要な局面に立っています。持続的な成長には、サプライチェーン全体で原材料費や人件費などを正当な価格に反映させていくことが不可欠。デフレ時代に染み付いた、価格交渉はよくないという考え方を払拭し、価格交渉は企業の未来を支える正当な行為であるという意識を持って取り組んでいくことが重要です」(春吉氏)

2026年に下請法・下請振興法が改正、より多くの企業を保護

現行のルールは現状にそぐわない部分もあり、より多くの企業が法律で守られるよう制度の改善も図られている。2026年1月1日には、取適法(下請法)・振興法(下請振興法)が改正。取適法は、不公正な取引を防止、取り締まることに重点を置き、振興法は、中小受託事業者の経営努力や能力向上を支援する。
これまで法律が適用されるかどうかは、委託事業者と中小受託事業者の資本金によって判断されていたが、資本金だけで判断すると規制および保護の対象から漏れてしまうケースがあるため、2026年1月1日の改正では、従業員数という新たな基準が追加される。

例えば、4次下請けメーカーの従業員数が300人以下(委託先の従業員数が300人超の場合)であれば、資本金に関係なく取適法によって保護されることになる。このように、できる限り多くの中小受託事業者を保護しようという取り組みがなされている。

さらに、パートナーシップ構築宣言も中小受託事業者保護の後押しとなっている。これは、主に川上に位置する企業が、サプライチェーン全体の「取引適正化」と「付加価値向上」に向けて取り組むことを自ら宣言するもの。パートナーシップ構築宣言のポータルサイトでは宣言した企業を検索でき、現在、約8万社が宣言している。ただし、国内企業のうち4%にとどまっているのも事実だ。

意見交換会では同じ悩みを抱える中小企業が交流

講習会終了後には、参加者によるワークショップ形式の意見交換会が行われた。中小企業等の経営相談所「よろず支援拠点」の専門家からのアドバイスを受けながら、思い思いの意見を述べていた。
参加者には、中小企業経営者だけでなくフリーランスで活動している人も。異業種であっても同じ中小受託事業者という立場。同じ悩みに共感しあう場面もあり、また違った視点からの意見に新たに気付かされることも多かったようだ。中小受託事業者が業種という垣根を越えてこのような交流が生まれるのも価格講習会ならではだろう。
価格交渉講習会はオンラインでの開催も予定されている。「会場まで足を運ぶことが難しい」「どのようなものかちょっと見てみたい」といった方もオンラインなら気軽に参加できる。価格交渉講習会は価格交渉・価格転嫁の第一歩。その一歩を踏み出してみる、またとない機会になるはずだ。