価格交渉・価格転嫁の取組事例
りんご農家の危機をバネに 「高くても買いたい」と思わせる商品へ
- ブランド力向上
- 交渉の工夫
- 技術力向上
- 取引関係の改善
公開日
取組のポイント
- 社会問題でもある1次産業の後継者不足へのアプローチ
- 適切な価格転嫁実現のための顧客関係管理
価格交渉・価格転嫁を行うきっかけ/ 企業で抱えていた課題
価格転嫁を決断した最大の要因は、主原料である加工用りんごの異常な価格高騰です。2018年には20kg入り1箱2,000円だったものが、2023年には2,500円(25%上昇)、2024年には6,000円(140%上昇)と、わずか7年間で原価率が3倍に膨れ上がったのです。
この背景には、青森県のりんご農家における深刻な構造的問題がありました。高齢化・離農・後継者不足により、2010年と比較して経営体数が4,016体減少(▲25.9%)し、さらに近年の高温障害や気候変動による病害虫の発生が追い打ちをかけていました。当社としては、6次産業化企業として農業・加工・販売の3事業を営む中で、原料調達の不安定化は事業継続性に直結する死活問題でした。このまま従来価格を維持すれば確実に赤字転落となるため、価格交渉は避けて通れない状況となりました。
取組を行った内容
まず、内部効率化による「価格上昇の正当性確保」と「顧客価値の向上」を両輪で推進しました。製造効率化では、1回の製造ロットを2,000個から4,000個に倍増させる設備投資を実行し、同一人員でより多くの生産を可能にしました。同時に、脱酸素剤の選定と工程見直しにより賞味期限を6ヶ月から10ヶ月へ延長し、流通段階での価値向上を実現しました。
ブランディング強化では、顧客要望に応じた食品サンプル、オーダーメイドPOP、主要取引先への専用什器を全て無償提供し、「多少高くても買いたい」と思わせる商品力の構築に注力しました。
実際の価格交渉では、販路を戦略的に選別し、商品のファンベースが確立された取引先を中心に、価格改定のお詫び文書、新価格見積書、販促物提供案内をセットでメール送信後、個別フォローを徹底しました。
取組を行ったことにより得られた効果
価格転嫁の成功により、当社は単なるコスト上昇の吸収を超えた戦略的な成果を獲得しました。最も重要な効果は、販路の質的転換です。価格帯上昇により「激安」を売りにするディスカウントショップや激安ドラッグストアが参入できなくなった結果、高級スーパー、高級コンビニ、雑貨店(ギフト需要)等の高価格帯販路から高い評価を獲得し、新たな市場セグメントへの参入を果たしました。
また、POPやプライスカードのデザイン内製化により、Photoshop・illustratorを活用した売場作りノウハウを習得し、売場担当者との関係性強化とデザイン力向上を同時に実現しました。具体的な価格実績として、主力商品「あおもり林檎セミドライ」は2018年の248円から段階的に価格転嫁を実行し、2024年270円(8.9%上昇)、2025年1月298円(10.4%上昇)、2025年7月347円(16.4%上昇)と、99円の値上げを達成しながら販路拡大を実現しています。
取組を行って感じたこと/ 今後取組を行う企業に対してのコメント
中小企業である私たちにとって、価格の決定は経営を左右する非常に重要な判断になると思います。度重なる原料高騰・賃上げを考慮し、値上げに踏み切りたいという思いの一方で、委託事業者や取引先からの要望や、競合他社の価格動向、値上後の買い控え、競合への切り替えなどが起きてしまったらどうするのか。弊社も多くの悩みを抱えながらも、価格転嫁に踏み切り、知恵を絞りながら経営していかなければならなかったのが実情です。結果、現状は販売数も落ちることなく順調に推移し安堵しておりますが、買い控え無く価格転嫁を実行するために、長い時間をかけて試行錯誤しました。
明治の初めに青森で根付いたりんご栽培は、今年植栽 150 年を迎えました。先代から受け継いだ技術により地域で丁寧に育てられたりんごを、地域内で新鮮なままに加工し、全国・世界へ販売すること。私たちにとって当たり前だった歴史や風景が、消費者にとっては価格の安さで図れない価値のあるものだったのかもしれません。
今回、価格転嫁の成功を通して、そういった商品の価値に気付けたこと、またその価値を消費者に伝えるノウハウの習得など多くの学びの機会を得ることができました。
昨今の物価高騰は中小企業にとって大変な問題ですが、商品やサービスの価値を見つめ直し、適正な利益を頂くための試行錯誤の機会と捉えた価格転嫁事例として、参考にしていただけましたら幸いです。
有限会社まごころ農場
有限会社まごころ農場は、1996年に設立された青森県弘前市にある企業です。創業時はミニトマトの水耕栽培から始まり、2012年からは6次産業化として加工部門を立ち上げました。青森県産のりんごや野菜を主原料に、ドライフルーツ、ジュース、ジャム、調味料などを製造・販売しています。地域資源を活かした商品開発力に強みがあり、安心・安全・高品質を理念としています。社員数は16名、パート従業員は25名です。
- 所在地
- 青森県弘前市大字薬師堂字熊本16
- 業種
- 製造業
- 従業員数
- 41名

